2025年5月、経済産業省「令和6年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(医療機関におけるPHR利活用推進等に向けた実証調査事業)」のメディア向け報告会を開催しました。
当社は、本事業の実証事業者として、全国4か所のフィールドで、地域医療を支える中核病院・大学病院や薬局とコンソーシアムを組成。外来通院中のがん・心不全患者214人を対象に、抗がん剤による有害事象の発生や心不全の再増悪に関するモニタリングと患者フォローを実施した結果、病院・薬局間の情報連携数が増加し、患者さんの生活の質向上や予後改善への貢献可能性が示唆されました。
本事業に参加した病院や薬局の関係者らも登壇した成果報告会には、業界誌のみならず、一般紙、TV局などの報道関係者も多く集いました。
登壇者(右から)
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長 橋本泰輔氏
日本調剤株式会社 自治医大前薬局 薬局長 大和田翔世氏
日本調剤株式会社 北関東支店長 矢澤克佳氏
自治医科大学附属病院 副病院長・薬剤部長 今井靖氏
倉敷中央病院 薬剤本部 薬剤副本部長 亀井健人氏
株式会社カケハシ メディカルサイエンスチーム マネージャー 竹部亨
株式会社カケハシ 上級執行役員 西田庄吾
成果の詳細はこちら:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000123.000033983.html
会の冒頭では、当社の西田より本事業の実施背景について説明を行いました。
西田「当社は、クラウド型電子薬歴『Musubi』や患者フォローシステム『Pocket Musubi』などの提供サービスを通じて、年間約2,500万人の患者さんとの接点を有しています。この接点を活かし、患者さんが薬局や病院にいない時でも、服薬状況をモニタリング/フォローすることで、医療の質の向上に貢献してきました。本事業では、薬剤師が『Pocket Musubi』を通じて外来患者さんとオンラインでコミュニケーションをし、そこで得た患者情報をもとに患者フォローと病院・薬局間連携を実施することで、治療効果の最大化を目指しました」
経済産業省の橋本氏は、PHRの利活用に向けた多角的な取り組みを、大阪・関西万博でのユースケース体験提供などにも触れながら紹介するとともに、今後の展望についても言及しました。
橋本氏「生涯にわたる個人の健康・医療に関わる情報をPHRと言います。公的なものでは健診情報や電子カルテなどがあるほか、近年のウェアラブル機器やスマートフォンの普及により、歩数や血圧といったライフログデータ/バイタルデータも精緻にPHRとして蓄積されています。医療DXの推進とともにこれらが情報網として整理されると、誕生から現在までの保健医療データが自分自身で一元的に把握可能になります。令和6年度の実証事業は、医療機関におけるPHRの利活用によってさらに高度な医療を生活者へ提供することを目指しました。認知度やオペレーションなどに課題はあるものの、社会への浸透に向けて、データの利活用が、サービス導入・利用に伴う負担を上回る価値を生み出すよう、関係各所と連携をしながら取り組んでいきます」
本事業の推進を担当したカケハシの竹部は、病院・薬局間の情報連携について、がんフィールドを例に挙げ、1か月あたりの平均フォロー件数が約3.2倍、トレーシングレポート数が約4.5倍、処方提案件数は約12倍に増加したことに触れました。また、がんフィールドでは、患者さんの生活の質を表す「健康関連QoL」の改善傾向が確認でき、心不全フィールドでは、再入院の抑制に寄与※する可能性が示されたと述べました。
※平均年齢:モニタリング群 66歳、モニタリング未実施群 81歳
退院後60日以内での再入院率を、モニタリング未実施群(n=164)、モニタリング群(n=18)で比較したもの
竹部「モニタリングやフォローアップによるセルフケアの改善や治療効果の最大化が期待される疾患は、がんや心不全にとどまりません。対象の疾患や病院を広げることで、より多くの患者さんの治療に貢献することに加え、医療現場の働き方改革の推進、医療財政にも良い影響を与えられるよう引き続き取り組んでいきます」
がん領域を担当した自治医科大学附属病院の今井氏。国民の2人に1人はがんになるといわれる現代において、外来治療における患者フォローの重要性の高まりについて述べました。
今井氏「がん分野における薬物療法の充実によって、大半の方が外来でがん治療を行う時代です。だからこそ、医療従事者である我々は病院の外にいる患者さんの普段の体調を正確に把握せねばなりません。本事業では、病院と薬局における情報連携の強化が見られました。また、患者さんは医療従事者と繋がれるという安心感から密に回答してくれたように感じています。今後このような仕組みが実臨床で利用できるようになれば、患者さんがより増えていくと予想されるがん領域でも、さらにきめ細やかなフォローができるのではないでしょうか」
自治医科大学附属病院とがん領域で連携した日本調剤からは、矢澤氏と大和田氏が登壇。本事業で得られた薬剤師側の具体的なメリットと、今後のさらなる発展に向けた改善点を提示しました。
矢澤氏「抗がん剤治療において、大抵の患者さんは治療を終えて医療機関外にいる時に、急性の悪心や嘔吐などが生じます。だからこそ薬剤師は調剤時の服薬指導だけでなく、有害事象の早期発見や必要に応じた受診勧奨などを行うことで、治療効果を最大化させなければなりません」
大和田氏「多岐に渡る抗がん剤の副作用を、患者さんへの1回の電話で聞き取るのは困難を伴います。本事業では、患者さんの状態把握において必要なヒアリング事項を確認できただけでなく、定期的に質問を送信したことで患者さんの状態を時系列で追えました。患者さんとしても、電話に比べ都合のよいタイミングで回答できるメリットがあったと思われます。一方、病院へのモニタリング内容共有と患者さんの診察のタイミングが前後するケースもあり、情報連携のさらなる効率化が今後の課題です」
心不全領域を担当した倉敷中央病院の亀井氏は、患者さんへの日常的な介入における医療従事者の業務負荷の軽減を期待し、本事業に参加しました。
亀井氏「心不全は、一度発症すると完治しない病です。増悪を防ぐには継続的な薬物治療と、体重測定や塩分の制限など患者さんによるセルフケアが必須かつ重要ですが、その介入は負担も大きく十分に実施できていないのが現状です。本事業において、患者さんが質問に継続して回答してくれるのかが懸念でしたが、質問内容を毎週変えることで回答への飽きを回避しました。結果、外来患者の日常生活の情報がなく困っていた現場医師が『ここまでわかるとは』と驚くほど。この情報は、増悪した際に日常生活において何が問題だったのか分析する手がかりにもなり得ます。将来的に一病院だけでなく、 地域全体で患者情報を収集し利活用することが重要だと思います」
本報告は、研究全体の中間データに基づくものです。現在もモニタリングを継続しており、最終的な実証成果については、今秋以降、関連学会等にて順次発表する予定です。また、今後はより多くの患者さんの治療に貢献することを目指し、対象疾患や連携する医療機関のさらなる拡大も視野に入れ、検討を進めてまいります。